大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和51年(行ウ)16号 判決 1977年11月11日

原告 九州ビル有限会社

被告 小倉税務署長

訴訟代理人 布村重成 ほか五名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  主位的請求の趣旨

1  被告が昭和四八年一二月二五日付通知書をもつて原告の昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日を八四二万〇六〇〇円とした更正処分及び重加算税を二二六万五三〇〇円とした賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  予備的請求の趣旨

1  被告が昭和五一年六月二六日付通知書をもつて原告の昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度分の所得金額を二二五七万三七七八円、法人税額を八五五万四六〇〇円とした再更正処分及び過少申告加算税を六七〇〇円とした賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

三  被告の本案前の申立(主位由及び予備的請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨

四  主位的請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄部する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  主位的請求の請求原因

1  原告は、土地売買を業とする同族会社であるが、昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度分法人税の青色申告書に所得金額を一六九万九〇二八円、納付すべき税額を四七万二二〇〇円と記載して申告し、更に昭和四八年七月四日所得金額を二八九万三一七八円、納付すべき税額を八〇万六五〇〇円とする修正申告書を提出したところ、被告は、同年一二月二五日付で、所得金額を二二二二万九七〇八円、納付すべき税額を八四二万〇六〇〇円とする更正処分及び重加算税を二二六万五三〇〇円とする賦課決定処分をした。

2  原告は、これに対し、昭和四九年二月二六日異議申立をしたところ、異議審理庁は同年一〇月二六日付で異議申立を棄却する決定をしたので、これに対し更に審査請求をしたところ、福岡国税不服審判所長は、昭和五一年三月三一日付をもつて右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書は同年五月二一日原告に送達された。

3  しかしながら、被告のなした原告の右事業年度における所得金額の認定については、次の各金額を損金として計上すべきであるのにかかわらず(ただし、(四)を除く。)、これらを益金とした誤りがあり、この誤りによつてなされた更正処分は違法であり取消されるべきである。

(一) 昭和四七年一一月一六日頃、原告より訴外三笠建設株式会社に支払つた不動産販売謝礼金一六八万三〇〇〇円。

(二) 原告より訴外東京興産株式会社に支払つた手数料五三一万七〇四五円。

(三) 原告より訴外葛原興産有限会社に支払つた土地取得代金五五〇万円。

(四) 右(二)(三)について、これを原告から原告会社代表者への仮払金としてこれに対する年一〇パーセントの割合で計算した金額を認定利息とした金八五万五九九四円。

4  被告は、右のとおりの誤認にもとづいて、原告の所得金額を二二二二万九七〇八円と更正し、これにもとづいて重加算税の賦課決定処分をなしたものであるから、右重加算税の賦課決定処分も違法であり、取消されるべきである。

よつて、主位的請求の趣旨のとおりの裁判を求める。

二  予備的請求の請求原因

原告は、後記のとおり、被告主張の昭和五一年六月二六日付本件係争事業年度にかかる法人税の再更正処分及び加算税の賦課決定処分の告知をうけた事実はないのであるが、仮に右再更正処分等が適式になされたとするならば、主位的請求につき述べたのと同一の理由をもつて、右再更正処分等の取消しを求める。

三  被告の本案前の申立ての理由

1  主位的請求について

被告は、昭和五一年六月二六日付で原告の本件係争事業年度分法人税の所得金額を二二五七万三七七八円、納付すべき税額を八五五万四六〇〇円とする再更正処分及び過少申告加算税を六七〇〇円とする賦課決定処分をなし、右各処分の通知書は同月二八日原告に送達された。

しかるに、原告は更正処分に対する取消を求めているのであるが当初の更正処分を再更正(増額更正)した場合には、当初の更正処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を失うと解すべきである(最高裁判所昭和四二年九月一九日第三小法廷判決民集二一巻七号一八二八頁参照)。

したがつて、当初の更正処分に対する取消しを求める原告の訴えは却下されるべきである。

2  予備的請求について

(一) 被告が昭和五一年六月二六日再更正処分等をなし、同処分の通知書が同月二八日原告に送達されたことは前述のとおりであるから、右再更正処分等に対する取消しの訴えは、三か月を経過した日までに提起することを要するところ、原告はこれを遙かに徒過した昭和五二年三月四日に同処分の取消しを求めて訴えの変更をなしたものである。

したがつて右訴えは、以下に詳述するとおり、出訴期間を徒過した不適法な訴えとして却下されるべきである。

(二) 訴えの変更(通常は、交換的変更がなされるのであるが、本件のごとく、予備的請求として追加的変更をする場合でも同じである。)がなされたときには、変更前の訴え(本件では、主位的請求である更正処分取消請求)が提起された日に変更後の訴え(本件では、予備的請求である再更正処分取消請求)が提起されたものとして、変更後の訴えの出訴期間の尊守の有無を判断しているが、これはあくまでも変更前の訴えが適法な訴えであることを前提とするものである。

しかるに、本件では、変更前の訴えである更正処分取消しの訴えは、行訴法一四条四項の出訴期間を徒過した不適法な訴えである。即ち、本件更正処分に対する原告の審査請求に対して、国税不服審判所は昭和五一年三月三一日請求棄却の裁決をなし、同裁決は同年五月二〇日原告に送達されているのであるから、原告としては、同日より三ヵ月を経過した同年八月一九日までに同処分に対する取消しの訴えを提起することを要するところ、同日を経過した同月二一日に訴えを提起したものである(なお、原告は、右裁決は昭和五一年五月二一日に送達されたものである旨の主張をしているが、しかりとしても、同年八月二〇日までに訴えを提起することを要するのであつて、所詮、同訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えである。最高裁判所昭和五二年二月一七日第一小法廷判決参照)。

以上のとおり、訴えの変更前の更正処分取消しの訴えが不適法であるから、変更後の再更正処分取消しの訴えは、同処分についての出訴期間内になされることを要するところ、右期間を徒過していることは前記のとおりである。

(三) およそ、更正処分と再更正処分とは別個独立の行政処分であるから、前者に対する訴えを後者に対する訴えに変更することは、前者に対する訴えを取り下げると同時に新たに後者に対する訴えについて出訴期間を尊守しているか否かは、訴えの変更申立書が後者に対する訴えの出訴期間内に裁判所に提出されたか否かによつて定まるものである。ただ、これによると、いつたん前者に対し適法な取消訴訟を提起して法律効果を不確定な状態に置いたにもかかわらず、後者の訴訟の出訴期間経過後に、前者の訴訟を後者に対する取消訴訟に変更すると、右不確定な状態が解消されることとなつてしまい、その結果は、更正処分と再更正処分との関係及び出訴期間の制限を定めた趣旨等からして、いかにも不合理であり、また妥当でないことから、最高裁判所昭和三一年六月五日第三小法廷判決(民集一〇巻六号六五六頁)は、前訴が適法な訴えである場合においてこの不合理、不妥当を解消するために、「後訴において、先行、後行処分の同一の実質的違法性を主張しておれば、前訴において既に右の違法を攻撃する部分に限り、訴えが提起されていたと同視すべきであるから出訴期間の尊守に欠けるところはない」旨を判示したのである。これに対して、前訴が不適法な訴えの事案においては、右不合理・不妥当は存在しないことから、同裁判所昭和二六年一〇月一六日第三小法廷判決(民集五巻一一号五八三頁)は、「行政処分の取消し又は変更を求める訴えにおいて、請求を変更し、あらたに行政処分の取消しを求めることのできるのは、その行政処分についての出訴期間内でなければならない」旨判示しているのである。このように、変更前の訴えが適法な訴えであるか否かに基づき、変更後の訴えの出訴期間の尊守の有無について、変更前の訴えが提起された時或いは訴えの変更がなされた時を基準とすることには合理的理由があるのであり、不適法な訴えを提起することによつて出訴期間をつなぐということはおよそ許されないものといわなければならないのである。

原告は、更正に対する取消しの訴えも、再更正に対する取消しの訴えもその実質は同一の訴えであるといつて何ら妨げなく、したがつて、更正に対する取消しの訴えが再更正に対する取消しの訴えについての出訴期間内に提起されている以上、これによつて、その時点において再更正の違法を争う意思が明確にあらわされているとして、このことから直ちに、本件訴変更による再更正処分取消しの訴提起がその本来の出訴期間経過後であつても適法とすべきである旨結論づけているのであるが、ここには、論理の飛躍がある。即ち、更正に対する取消しの訴えも再更正に対する取消しの訴えもその実質は同一の訴えとみることができ、したがつて、更正に対する取消しの訴えには再更正の違法を争う意思があつたものとみることはできるけれども、このことから、当然に、更正に対する取消しの訴えと再更正に対する取消しの訴えとが同一の訴えとなるものでもないし、したがつてまた、再更正に対する取消請求が更正に対する取消しの訴えの提起時点になされたものとなるものでもないことは、更正処分と再更正処分とが別個独立の行政処分である以上多言を要しないところである。さすれば、更正に対する取消しの訴えには再更正の違法を争う意思があつたものとみることができ、しかして、再更正に対する取消しの訴えの出訴期間の尊守の有無の判断については、更正に対する取消しの訴えを流用或いは利用するに過ぎないのであるから、当該訴えが流用或いは利用されるに足りるだけの訴訟要件を具備していなければならないこと理のしからしめる当然のことである。

以上のとおりであるから、本件予備的請求にかかる再更正処分取消しの訴えは不適法というべきである。

四  本案前の申立てに対する原告の認否及び主張

1  主位的請求について

原告は、被告主張の再更正処分の告知を受けた覚えがない(右処分の存在は、本件訴訟における被告の答弁により初めて知った)。

書留郵便による処分通知書の発送は、一応は告知の存在を推認させるが、現在の郵便官署による郵便配達の実態からすると、確実に原告代表者に右通知書が到達したとは断言できない。それに、本件訴えの提起に至る経過によつて明らかなとおり、原告は被告の本件損金否認を一貫して争つて来ていたのであるから、もし被告主張の再更正処分を認知していたならば、必要な不服申立の手続をとつていたはずである。

2  予備的請求について

(一) 原告は、予備的に取消しを求める再更正及び加算税の賦課決定処分について行政不服申立の手続を経由していないが、以下の理由により、行訴法第八条二項三号に該当する。即ち、原告の修正申告に対し被告がなした更正処分につき原告において適式に行政不服審査の手続を経由したこと、原告は右審査手続において、被告のなした損金否認を争つたことは前記のとおりであるところ、被告は、その主張の再更正処分の理由を明らかにしないけれども、右のとおり既に不服審査の手続を経た損金否認の点については、審査庁の裁決の判断を前提としていることが明らかであるから、右再更正処分につき更に審査請求の手続を経て、再び同一事項について同一審査庁の裁決を経ることは全く無意味であるといわねばならない。けだし、本件のような課税処分の取消訴訟について、不服審査手続前置を出訴の条件としているのは、(1) 租税に関する処分は大量的、反覆して行われるものであること、(2) 争点が事実認定に関するものが多く簡易迅速することの要請が強く、これらの大部分が不服申立の手続で容易に解決されること、(3) 租税法の解釈については技術的な性格のものが多いこと等の理由にもとづくものであるから、再更正処分に対し他の事由をもつてその処分内容を争うものならばともかく、全く同一事由(前記損金否認の点)をもつて本件取消しの訴えの理由としている以上、まさに、裁決を経ないことにつき正当な理由があるときに該当するというべきである。

(二) 本件予備的請求については、主位的請求たる更正処分取消の訴えが出訴期間内に提起されている以上、出訴期間が遵守されているというべきである。即ち更正処分、再更正処分が別個独立の処分である以上、行訴法一四条の出訴期間も別個とみるべきであるかも知れないが、本件のような更正処分と再更正処分とは、先行処分が後行処分に吸収されると同時に後行処分の中に復活するという特殊の関係に立つものであり、かつ、原告が主張する処分の違法事由は訴えの変更の前後を通じて同一であるから、本件の主位的請求も、予備的請求も、その実質は同一の訴えといつても妨げないものである。そして、主位的請求と予備的請求が右のような関係にあり、主位的請求が出訴期間内に提起されている以上、追加された予備的請求についても出訴期間が遵守されているというべきである。

被告は、本件更正処分取消しの訴え(主位的請求)はその提起のときにおいて既に出訴期間を徒過した不適法な訴えである旨主張するが、行訴法一四条一項の出訴期間の起算点の解釈については、行政訴訟における権利救済の門戸をできる限り広くするとの見地から、民法上の原則にのつとり初日不算入の計算方法の適用があるものと解すべきである。

しかるところ、国税不服審判所の裁決は昭和五一年五月二一日原告に送達されたのであるから、右計算方法に従えば、同年八月二一日までに訴えを提起すれば足りるものであり、本件主位的請求は何ら出訴期間の遵守に欠けるところがないというべきである。

したがつて、本件再更正処分に対する取消しを求める予備的請求についても、何ら適法性の具備に欠けるところはないというべきである。

(三)なお仮に、本件主位的請求につき出訴期間尊守の点に瑕疵ありとしても、かかる一事のみをもつて本件予備的請求の適法性を損なうと速断しうるものではない。すなわち前記のとおり本件更正及び再更正の各処分は、一応は別個の処分ではあるが、元来全く無関係なものということはできず、先行処分が後行処分に吸収されると同時に後行処分の中に復活するという特殊の関係に立つものであり、かつ、本件において原告が主張する更正及び再更正処分の違法事由は訴えの変更の前後を通じて同一であるから、本件主位的請求も予備的請求も、その実質は同一の訴えといつても妨げないものである。

さらに遡つて考えれば、取消訴訟の真の狙いは、当該行政処分によつて生じた違法状態を排除して元の状態に回復し、これによつて基本的人権を確保し保障することにある。これを本件に則して述べると、本件更正処分についての取消訴訟は、形式的には当該更正処分の取消しを求めるものであるが、実質的には、当該更正処分によつて違法に多額の課税がされることを理由として、その違法状態の排除を求めているものにほかならない。したがつて、更正処分が再更正処分に変転した場合においても、右処分に対する各取消訴訟の訴訟物は一応更正、再更正の行政処分によつて画されるとはいえ、原告において、主位的、予備的各請求を通じ、両者を実質的に同一の訴えたらしめている違法状態を主張している以上、前訴である主位的請求の提起の時点において再更正の違法を争う意思が明確にあらわれているのであるから、少なくとも訴提起(訴訟係属)及び不服審査手続経由の有無の点については、実質上同一の訴えとして、適法性維持のため同一の取扱をなしうるものといわなければならない。

してみると、仮に主位的請求につき出訴期間を徒過したとしても、予備的請求の追加的変更による新訴の適法性は毫も損なわれるものではないというべきである。

被告は、かかる取扱をなすには、前訴である主位的請求が後訴である予備的請求に流用或いは利用されるに足りるだけの訴訟要件を具備していなければならない旨主張する。しかし、被告の右主張は、取消訴訟の趣旨が当該行政処分によつて生じた違法状態の排除にあり、処分の取消しをその形式上の手がかりとしているにすぎないことを看過するものであり、かつ、上記同一取扱の理論が更正、再更正処分間の特殊関係及び前後訴を貫通している原告主張の違法事由の実質的同一性に由来しており、単なる訴訟技術上の「流用」、「利用」の問題ではないことを理解しないものである。

五  主位的請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項中、審査裁決書の送達日は不知。その余は認める。

3  同第3項中、(二)、(三)を原告会社代表者への仮払金と認定したこと及びこれに対し年一〇パーセントの割合で計算した金額八五万五九九四円を認定利息として益金に計上したことは認め、その余は争う。

4  同第4項中、原告の所得金額を二二二二万九七〇八円と更正し、これにもとづいて重加算税の賦課決定処分をしたことは認め、その余は争う。

第三証拠<省略>

理由

(主位的請求について)

原告が昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度の法人税につき所得金額を二八九万三一七八円、納付すべき税額を八〇万六五〇〇円として被告に修正申告したところ、被告は昭和四八年一二月二五日付で所得金額を二二二二万九七〇八円、納付税額を八四二万〇六〇〇円と更正する処分及び二二六万五三〇〇円の重加算税賦課決定をしたこと、これに対し原告は異議申立てをしたが棄却され、更に審査請求をしたところ福岡国税不服審判所長は昭和五一年三月三一日付で右審査請求を棄却する裁決をし、その旨の裁決書がその頃(後記のとおり同年五月二〇日と認められる。)原告に送達されたことは、当事者間に争いがない。

被告は、原告の本件係争事業年度の法人税については、その後所得金額及び納付税額を増加する再更正処分がなされた旨主張し、これに対し原告は、右のごとき再更正処分の通知を受けたことはない旨主張して争うので案ずるに、<証拠省略>によれば、被告は、昭和五一年六月二六日、本件係争事業年度にかかる原告の法人税につき所得金額を二二五七万三七七八円、納付税額を八五五万四六〇〇円と再更正するとともに、過少申告加算税六七〇〇円の賦課決定をなし、即日その旨の通知書を原告あてに発送したところ、原告会社代表者はこれを同月二八日受領した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、以上の事実に基づいて判断するに、右のような再更正処分は所得金額等の差額部分を追加決定するものではなく、所得金額等の全体を改めて決定する性質のものであるから、再更正処分がなされたのちは当初の更正処分に対する取消しの訴えは、訴えの利益を欠くことになると解すべきである。

よって、当初の更正処分の取消しを求める本件主位的請求の訴えは不適法として却下を免れない。

更に、<証拠省略>によると、原告の審査請求を棄却した福岡国税不服審判所長の裁決書は昭和五一年五月二〇日原告に送達されたことが認められるので、行訴法一四条四項の規定に照らし、本件更正処分及び重加算税賦課決定の取消しを求める訴えは、右同日より三ヵ月以内、すなわち同年八月一九日迄に提起する必要があつた(期間の計算につき初日を算入する点については最高裁判所昭和五二年二月一七日判決、民集三一巻一号五〇頁参照)のであるが、原告は右期間を徒過した同年八月二一日に右の訴えを提起したことが記録上明らかであるから、本件更正及び重加算税賦課決定に対する取消しの訴えは、出訴期間の点からしても不適法であるといわなければならない。

(予備的請求について)

前認定のとおり、被告は、昭和五一年六月二六日原告の本件係争事業年度分法人税について再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をなし、その通知書は同月二八日原告代表者に送達されたのであるから、右再更正処分及び賦課決定処分の取消しを求める訴えの出訴期間は同年九月二八日までであるところ、原告が右趣旨の訴えを予備的に追加したのがその出訴期間経過後の昭和五二年三月四日であることは本件記録上明らかである。しかし、他方、右出訴期間内の昭和五一年八月二一日に当初の本訴更正処分等の取消しの訴え(本件主位的請求)が提起されていることも本件記録上明らかである。

そこで、以上のように、再更正処分取消しの訴えの予備的追加がそれ自体の出訴期間経過後になされているけれども、当初の更正処分取消しの訴えは再更正処分取消しの訴えの出訴期間内になされている場合において、再更正処分取消しの予備的請求が出訴期間を尊守した適法なものといえるかどうかが問題となる。

なるほど、前記のように、当初の更正処分に対して増額の再更正処分がなされた場合には、再更正処分によつて当初の更正処分は消滅し、改めて全体として課税標準等が確定しなおされるものと解するのが相当であるから、当初の更正処分について不服申立てを経ていれば、再更正処分に対して不服申立てを経ることなく直ちに出訴することができるとともに、当初の更正処分に対する訴えがその出訴期間内に提起されていれば、訴えの変更による後訴(再更正取消しの訴え)の提起がその出訴期間経過後であつても、出訴期間は尊守され後訴は適法であると解するのが相当である。しかし、本件のように、そもそも当初の更正処分取消しの訴えがそれ自体の出訴期間経過後に提起され、しかも、再更正処分取消しの訴えの予備的追加もそれ自体の出訴期間経過後になされているような場合には、右予備的追加にかかる再更正処分取消しの訴えは出訴期間の不尊守により不適法として却下を免れないものと解するのが相当である。けだし、更正処分の取消しを求める訴えがその出訴期間内に適法に提起された場合には、当該処分は判決の確定に至るまで一種の浮動状態に置かれると考えることができるので、その後再更正処分がなされることによつて更正処分の取消しを求める当初の訴えが目的を失い、かつ再更正処分についての出訴期間を経過した後、これを理由として却下の判決がなされるまでの間に訴えを変更して再更正の取消しを求めることを許したとしても、これによつて行政処分の効力が不当に長く不確定の状態に置かれるという弊害が生じるとはいえないし、納税者に対する司法上の権利救済の門戸を広くする利点があると解されるのであるが、当初の更正処分取消しの訴えそのものが出訴期間後に提起された不適法なものとして却下されるべきであった場合についてまで右と同じ解釈をとることは、出訴期間を定めた法律の趣旨から著しく離れることとなり、許されないものというべきである。

これに対し、原告は、本件のごとく租税に関する処分を争う訴えは、要するに違法に多額の課税がされるという状態を排除することに目的があり、その意味で更正及び再更正の各処分は実質的に同一というべく、更正処分取消しの訴え提起の時点において再更正の違法を争う意思が明確に表われている以上、右訴えについての出訴期間の徒過は本件変更後の訴えの適法性を何ら損うものではないと主張する。しかし、更正処分と再更正処分とは前者が後者に包摂されつつ、後者の中に生かされるという特殊な関係にあることを肯認し、したがつて、課税標準等の認定を同じくする範囲で実質的に同一の目的を有することを認めるとしても、両者が別個独立の行政処分であることを否定できない以上、その取消しを求める訴えの訴訟物が異なることはいうまでもないところであつて、当初の更正処分に対する取消しの訴え提起により課税に対する原告の不服の意思が事実上表われているとしても、右訴え提起をもつて法律上再更正処分取消しの訴え提起があつたものとみなすことは許されないといわざるをえない。そうだとすると、本件においては更正処分及び再更正処分のいずれについても出訴期間が遵守されていないこととなり、本件予備的請求にかかる訴えもまた、出訴期間徒過後の訴えとして不適法であると解すべきである。

(結論)

以上の理由により、原告の本訴請求は、主位的及び予備的請求の双方とも不適法として訴えを却下することとし、訴訟費用は原告の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判官 南新吾 小川良昭 辻次郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例